【はちみつ文庫】 嫉妬は恋の媚薬 2
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□ 嫉妬は恋の媚薬  □

嫉妬は恋の媚薬 2

 角を曲がると、ルシガが重い口を開いた。

「誰だったんだ?」

 嘘を言っても仕方なかった。
 しかしそれを口にするのが、嫌だった。

「おい?」

 問いただすようなルシガの口調に、アレックスは正直に話しだした。

「昔……もうずいぶん昔に、付き合っていたと言うか……あ、でも、そんな長くじゃなく……ほんのちょっとだけ……」

 ルシガの返事はない。

「今はもう、何の関係もないし……会ってもいないわ」
「あの体つき……同僚か?」
「昔のね……。でも、今は本部にいないのよ」
「……」

 ルシガは黙り込んだまま、雪の中に立っていた。
 アレックスからは、街灯が逆光になって、その表情が見えない。

「ねぇ……怒ってる……?」

 アレックスは、ルシガの表情を少しでも見ようと、覗き込むようにして話しかけた。

「私が怒るようなことじゃない」
「……」
「……すまんが、帰る」

 そう言うとアレックスの手を離し、紙袋を渡すと、ルシガは歩き出した。

「待って……! 話を聞いて……」
「……今は、何も話したくない」

 冷たく言い放つと、ルシガは振り返らずに去って行った。

「……ルシガ……」

 誰もいなくなった通りで、アレックスはか細い声で ルシガの名を呼んだ。
 先程までは 寒さなど感じぬほど幸せだったのに、今は強くなる雪の中、一人ぼっちだ。
 紙袋を地面において、涙が凍りそうになる中、アレックスは嗚咽を漏らしながら泣いた。
 声を出さなければ、苦しさで胸が張り裂けてしまいそうだった。

『こんな日に、偶然昔の男と鉢合わせをさせるなんて……神様は意地悪だわ』

 思っても仕方ないことが、脳裏を過ぎった。
 ルシガに言った事は、全て本当だった。
 いや、むしろそれ以下で、何度か身体を交えただけの、記憶にもほとんどない相手だった。

 過去の出来事は過ぎたこととして、許してはもらえないのだろうか?
 今心にいるのは……そしてこれからも、ルシガしかいないと言うのに。

 ふと見ると、かじかんだ指に、誕生日にルシガがくれたリングが光っていた。
 南の海の色に輝く宝石が、涙で霞んで見える。

「大丈夫……こんなことで……終わりはしないから……」

 自分を励ます為に、声を出して言ってみる。

 それでも不安が涙となって流れ落ちるのを、止めることはできなかった。




「デートはどうしたんですか? デートは?」

 泣くだけ泣いて、職場に戻って来たアレックスを見ての、マシューの第一声はそれだった。

「マシュー。貴方って、本当に無神経ね。ジョン、今日は帰っていいわよ、アタシが替ってあげる」
「ええー? ずるいなぁ!」
「だって、ジョンは子供が生まれたばかりでしょ。さあ、早く帰ってあげないさい」

 そうやって部下の一人であるジョンを帰らせると、アレックスは買って来た食品をデスクに並べはじめた。

「わぁ! 僕の為に、夜食ですか?」
「貴方の為じゃないけどね。まあいいわ、一緒に食べましょ」

 課の隅にあるレンジで温めると、立派なディナーが出来上がった。

「シャンパンもあるじゃないですか!」
「お酒はだめよ。勤務中」
「うっわー! このラムチョップ、旨―い! フォアグラんなんて食べるの、何年振りだろうなー!」

 無邪気に食事を貪るマシューを見ていると、アレックスはまた泣きたくなってきた。
 本当ならこの食事を、ルシガと2人っきりで食べるはずだったのに……そう思うと食も進まない。
 それでも一人で家にいるより、気がまぎれるだけましだった。

 何度もルシガに電話をかけようかと思ったが、出てくれなければ辛いし、出られて冷たい態度を取られたら、それはそれで辛い。
 それ故、電話をかけられぬままにいた。
 今頃ルシガは何を思っているのかと、考えるだけで胸が痛かった。

 食事を早々に済ませると、早速犯人探しを再開する。
 気分転換には、丁度良い作業だった。

「ビラをデスクに配ってるところの、映像記録を見ればいいじゃないですか?」
「そんなのは上層部がとっくに確認済みよ。全館の早朝四時から六時の間の記録が、すっぽり抜き取られてたわ」
「指紋は?」
「馬鹿ね、残すはずないじゃない。リストアップした人物の行動を、1人ずつチェックしていきましょう」
「ええー! 記録を全部見るんですかー?」
「仕方ないでしょ」
「うっひゃー。アレックスさん、敵が多いっすねぇ~!」

 マシューはチェックされた人物の数を見て、悲鳴をあげた。




 怪しい順に、人物の行動記録画像を早回しでチェックしていくが、なかなか犯人には辿り着かなかった。

「おかしいわねぇ……」
「もう、疲れましたよ~」
「方法を変えてみましょう。リストをもう一度貸して」

 アレックスの視線がリストの名前を追った。
 その中にピンと来たものがあった。

「でも……まさか……」

 思わず言葉に出るくらい、意外な人物だった。

「ねえ、アンドリュー・タンクの記録を出して頂戴。十二月二十五日深夜二時に入ってるわ」

 マシューが,眠気眼で機械を操作すると、管内に入って来るタンクの姿が映った。

「2階に上がるようですね。この廊下を曲がって……あれ? 庶務課に何の用だろう? タンクさんって捜査4課ですよね?」
「コピー機の近くに行ったわ。アップにして」
「あれ? 何枚もコピーしてますよ? あ、紙を差し替えた!」
「もっと、ここをアップに」
「ああ~~~! 例のビラですよ。あれをコピーしています!」
「……」
「犯人は、タンクさんだったんですね。……でも何で?」

 アレックスには思い当たることがあった。
 ルシガと付き合い始めた時、タンクから迫られたのを断った記憶がある。 
 出来るだけ傷つけないように、丁寧に断ったつもりだったが、どうやら逆恨みされたらしい。

「なんだか気が抜けちゃったわ」

 もっとそれらしい理由があっての嫌がらせだと思っていたのに、振られた腹いせだったなんて、馬鹿馬鹿し過ぎる。
 しかもルシガを大切に思う為断ったのに、その相手と今こんな状態になっているなんて、皮肉もいいところだ。

「何故、特別警察のコピー機を使ったんでしょうね? コピーなんてどこでもできるじゃないですか」
「原版の雑誌には、コピーガードがかかっていたの。外す為には身分証が必要でしょう? ここなら自由に使えるわ」
「なるほど……」
「ああ……もう! ……マシューちょっと来て!」

 そう言うとアレックスは、ムシャクシャする気持ちを振り払うように、マシューを休憩室に誘った。





「ああ……そこ……ぅん……もっと……」
「アレックスさん……」
「ああ……いい……そこよ、そこ……」
「……もうだめです……疲れました……」
「やめちゃだめ」
「勘弁してくださいよ、もう」

 マシューはアレックスの上から離れると、腰をさすりながら「疲れた~」と、言った。
 アレックスは乱れた衣服を整え、溜め息をつく。

「貴方って、マッサージだけはホント上手いわね」
「マッサージ屋さんへ行ってください」
「イライラする時は、貴方のマッサージに限るわ。それに新年の明け方に、開いてるお店なんてやってないじゃない」

 窓からは初日が降り注ぎ始めていた。

「あーあ、マシューと朝を迎えちゃった」
「変な言い方は、よしてくださいよ」
「ねえ、マシュー」
「何ですか?」
「やっぱり男って、処女がいいの?」
「何ですか! 唐突に?」
「いいから答えて」
「そりゃあ……そうですよね……」
「アタシは嫌よ。血が出るのなんて」

 アレックスは、デスクの鏡に自分の姿を写しながら言った。

「露骨だなぁ。血が出るのとか、どうとかじゃなく……結局、男は自信がないんですよ」
「自信?」
「ナニとか……テクニックとか、比べられるのが嫌なんです」
「……」
「それにやっぱり、初めての男でありたいって言うのは……永遠にありますよね」
「そう……」
「誰にも汚されてない身体を、征服したいっつーか」
「最低! もういい、帰るわ!」
「ちょ……何、怒ってるんですかー?」

 アレックスは荷物を持つを、課の扉を開け出て行った。




 駐車場に向かう階段を降りていると、向こうから本日の当番なのか、タンク捜査官がやって来た。
 アレックスを見つけ顔をそむけるタンクの横を、わざと通り過ぎる。
 すれ違い越しに「顔を見れなくなるようなことは、しない方がいいわよ」と、言ってやる。

 アレックスが車に乗ろうとした時、遠くから声が聞こえた。

「すみません! ……すみません!」

 泣き声のような声が、人気のない駐車場に響いた。




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Date:2011/03/04
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