【はちみつ文庫】 魔導師の戒律 4
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□ 魔導師の戒律  □

魔導師の戒律 4

ルシガは巻物をかたずけ金庫を出ると、すぐに2階フロアーに行き、図書館利用者用のコンピューターを起動させた。
あるサイトを真剣な眼差しで見ていると、アレックスからの電話が入った。

「あの死体の男の身元がわかったわ。名前はアド・ラルフ。子供を使った売春と、臓器販売の元締めよ。そしてその男の店には……」
「……イザード・ヤーソンが通っていた」

ルシガは小声で答えた。

「さすがね、そのとおりよ。そっちは何かわかった?」
「……会って、話す」
「待ち合わせは本部?」
「データーベースへの端末は、車にあるか?」
「ええ、もちろん」
「では、車で魔法省まで迎えに来てくれ」
「……わかった。十五分後に着くわ」

ルシガが見ていたのは、航空会社のサイトだった。
探していた飛行機は、今日の二十三時半出発だ。
それを逃せば二週間後まで便はない。
国内に留まれば留まるだけ、事件が発覚し、身に危険が迫るのをイザード・ヤーソンは十分知っているはずだった。

奴が選ぶ道は、これしかない。

図書館の時計を確認すると、夕方の六時を過ぎていた。
普通の犯罪者なら飛行機が立つまでに捕まえれば済むことだが、相手は魔導師、空港内で騒ぎを起こせばどんな被害が及ぶかわからない。
彼が空港に入る前に、捕まえる必要があった。

図書館を出るとルシガは歩きながら、胸の内ポケットからクリスタルの欠片を取り出した。
それを目の前にかざし、小さな声で呪文を唱える。
イザード・ヤーソンが張っている結界を破り、彼を見つけるためだった。

思ったとおりイザード・ヤーソンは、何重もの結界を張っていた。
しかしそれを破るのは、ルシガには他愛もないことだった。

「見つけた」

ルシガの切れ長の瞳が光った時、クラクションが鳴った。
魔法省の対面の道路に、アレックスの車が止まり、ルシガを待っていた。
大通りを渡り車にたどり着くと、ルシガはアレックスに「運転を変る」と、言った。

「まず先に、どういう事か話してちょうだい」

と言う、アレックスに

「時間がない、運転しながら話す」

と言い返すと、ルシガは強引にそのハンドルを奪い、車を発進させた。




ルシガは車を西に向けて走らせていた。
冬の日暮れはあっけなく、暗闇の中、アレックスの白い車が疾走する。

「さあ、説明して!」

アレックスは、詰め寄るようにルシガに言った。

「その前にアド・ラルフと言う男が、西部地区ハイマー通り、のザイドと言うホテルに泊まってるかどうかを確認してくれ」
「……アド・ラルフ?」

アレックスは一瞬怪訝な顔をしたが、端末を動かし始めた。

「……泊まっているわ。同行者は子供一人……。ねえ、売春宿の少年が一人失踪してるのよ」

ルシガは軽く頷き、アレックスに訊ねる。

「そのホテルは第三部類か?」

この国のホテルはそのランクにより、三つの部類に分かれていた。
第三部類は一番格下のホテルで、支払がカードでしかできないようになっている。
比較的治安の良くない小さなホテルに適用され、犯罪の温床になるのを防ぐための措置だった。

「ええ、そうよ」
「ヤツのカードを、使用停止にできるか?」

繊細な指先が、再びタッチボードを触った。

「止めたわ。……ねえ、話をして」

ルシガは冷めた目で、正面を見つめながら話し始めた。

イザード・ヤーソンは、赤ん坊の時に教会前に捨てられた孤児である。
しかし魔道師としての才能を認められ、魔法学校に入学し、その卒業許可を得た。
 
だが、彼には魔導師になる為の肝心なものが欠けていた。
契約時に国家に捧げる『大切な物』がなかったのだ。
 
『大切な物』の提出は、魔導師がその戒律を守る意志を見せる、儀式のようなものだった。

それは本人にとって恒久的にかけがいのないものでなくてはならず、受理されるかどうかは魔法学校の教授らによって審議され、最終的には魔法省長官の承認で契約が完了する。
 
以前はその生命や、躰の一部などで許可が下りていたが、七十年前に発足した国家人権委員会による人権法改正以来、それらは禁じられていた。

豊かな者はその富を捨て、また貧しい者は両親や兄弟との永遠の離別を約束するのが通常だった。
しかしそれすらも持たない者は、魔法省に貞操を誓うのだ。
それは生涯結婚はおろか、性交の一切を放棄することを意味する。

これも人権に触れそうなものだが、一部の宗派の僧侶に求められるものと同じなので、人権委員会も違法にはできないでいた。

しかし閉鎖された世界である魔法学校で、卒業時にこれを約束しても、社会に出れば色々な誘惑がある。
それでも契約を破った者は重大な戒律違反とみなされ、黒魔導師として狩られる対象になるのだ。
たった一度の性交が死に値する・・・・・それはあまりにも過酷な契約だった。

何年かごとにこのような問題は起こり、その度に魔法省は社会からの攻撃を受けたが、魔導師の戒律を守ることは、過去の暗黒時代に戻らないためにも絶対に必要なことだった。

「その禁を、魔法省の……しかも黒魔導師対策課職員が破ってしまったのね」
「……そのようだな」
「隠しちゃえばいいじゃない」
「魔導師は、二年に一度審問会に出なければならない。審問委員を騙すのは不可能だ」
「……厳しいのね」
「力があるだけに、規制せねば大変な事になる」
「でも……生涯人を愛せないなんて……そんなことを学生に決めさせるなんて……」
「だからいつも問題になっているんだ」

吐き捨てるように言ったルシガの横顔は、暗く陰っていた。

「捕まったら殺されるの?」
「……」
「人を愛しただけで殺されるの?」
「愛するのは自由だ。性交が許されないだけだ」
「だって……好きになったら、セックスしたいじゃない」

アレックスの言葉に、ルシガは返事をしなかった。
その哀れな男を処分しなければならいのが、自分だったからだ。





安ホテルの一室で、男と少年はその荷物をまとめていた。

「ねえ、ユレイク。その姿じゃないとダメなの?」

旅行バッグのファスナーを締めながら、少年が男に訊ねた。

イザード・ヤーソンは、少年に自分をユレイクと呼ばせていた。
それは彼が、教会の牧師に付けてもらった名前だった。

「あちらに入国するまではな」
「僕……その姿は怖いよ」

少年はかつて自分を拘束し、虐待した男の姿を嫌っていた。
 
「わかっているよ。少しの辛抱だからな」

少年は唇を尖らせていたが、すぐに機嫌を直した。

「ねえ、ヴィラムってどんな国?」
「2人がずっと一緒にいられる国だよ」

そう言って男は微笑んだ。
 
 
ヴィラムは国際社会から見放された、軍事政権の小国だった。
未だ内戦が続き、決して豊かではない。
しかしこの国と定期便があるのに国交がなく、なおかつ魔導師の入国を拒否する国はそこしかないのだ。
ヴィラム行けば少なくとも、魔法省配下の魔導師から追われることはなくなる。
 
彼には選択肢がなかった。
戦火は魔法で逃れることができるだろう。
どこか人里離れた場所で、アミュレと二人で生きていければいい。
男が望むことはそれだけだった。

「じゃあ、少し早いが出ようか」
「空港かぁ、楽しみだな。僕、飛行機に乗るの初めてなんだ」

少年は屈託なく言った。

アド・ラルフの姿を借りた、イザード・ヤーソンにとって、この少年は全てだった。

黒魔導師狩りで立ち寄った売春宿で、一目で恋に落ちた。
誘われるように禁を破ったその日から、彼は戻れない道を歩き始めた。
 
来月に控えた魔導師審問会で、契約違反が発覚するのが怖かったのも事実だ。
だがそれ以上に、死によってこの少年と離れるのが辛かった。

売春宿でその美しさから、この年まで生き残ってこれたが、遅い変声期を迎えた今、この少年に待っているものは死しかなかった。
そんな少年を守れるのは、自分しかいない。
だから元締めであるアド・ラルフを殺し、偽装し、今その姿を借りて国外逃亡しようとしている。

魔導師の戒律違反、殺人、偽装、そして魔導師の無許可出国(魔導師の出入国は、魔法省によって厳しく管理されている)……いくつもの犯罪を起こし、全てを捨てでも傍にいたかった。

初めて恋をし、その欲望に駆られた男には歯止めが効かない。
いや、それ以上に内戦状態のヴィラムに、新天地を求めていることは、もはや正気の沙汰ではなかった。

「ねえ、ヴィラムって暖かい?」
「ああ……」

嘘ではなかった。
しかし暖かいというよりは・・・年間平均気温三十七度以上のセルバ〈熱帯雨林〉なのだが……。
 
「さあ、行こう」

二人は荷物を持つと扉を開けて、その灼熱の地獄に向かって旅立とうとしていた。




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Date:2011/02/20
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